空色のパノラマ

空色のパノラマ

なにげない毎日の中にひっそり佇むささやかで見落とされがちな奇跡を、X100Fとクラシッククロームで綴る日記。

読書感想文「ディスコ探偵水曜日/舞城王太郎」

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 ※撮影:2020年4月。近所、自宅、庭。


ディスコ探偵水曜日/舞城王太郎」

ディスコ探偵水曜日〈上〉 | 舞城 王太郎 |本 | 通販 | Amazon

 


迷子探し専門の探偵、本名ディスコウェンズデイ=日本在住のアメリカ人のもとに
保護された6歳の女の子=梢、にある日、未来の梢が入り込んで、成り行きで名探偵
連続殺人?事件の現場に未来の梢に追い出された梢の魂を探しに行くことになり・・・


なんていうか、もうこのタイトルがものすごくこの話しを表しているなぁ、と。

舞城王太郎の話は特に初期の頃はそうなんですが、文体が・・・そうですね、
砕けているというか、壊れているというか、いや、でたらめとかそういうのではなく、
疾走感がすごくて、とても癖があって、めちゃめちゃかっこよこくてリズミカルで。

ストーリーもものすごく乱暴で、暴力的で、性的なものも山ほど、目を背けたくなる
ような描写もあり、それがまたユーモアというかコミカルといっていいような
描写をされるので、拒絶される方も非常に多いのではないかと思います。
はい、僕もこの話を人に薦められるかと言われると、すごく人を選んで
大丈夫そうな人にだけ薦められる感じです(笑)

で、このディスコ探偵水曜日も、そんな勢いでどばばーって感じで人が傷つけられて
怒涛の勢いで話が進んでいくのに加えて、さらにこの話の下敷きはSF。
前半は(トンデモ)ミステリ、だと思っていたら、後半は(トンデモ)SF。
世界は認識する者の認識の通りにできている、その認識が変われば世界が変わる、って
いう、量子力学の曲解というか、SF小説の設定としては割と目にするトンデモ
世界観で、そんな訳なので舞台となる世界もとんでもないことになっていきます。
おまけにタイムトラベルもの。しまいには天地創造。ってな具合でもうほんと
ぐっちゃぐっちゃになっていきます。

そんな感じなんですが、でも、よくよく読むとすごく丁寧なんです。すごく誠実。
多分、根本的にはおいおい、っていう突っ込みどころ満載なんですが、でも、その
世界観=物語の設定=認識通りに世界が変わる、っていうことに対してすごく誠実に
丁寧に世界の変化が積み重ねられていって、タイムトラベルも、ネタバレすると、作中でも言及されてますが「ドラえもん のび太の魔界大冒険」的に、つまり未来から過去に
戻って何をしても結局そこからの未来は変わらない、というものを基本にしていて、
つまりタイムトラベル前と後で結果は変わらない、という世界観なので、最初の内、
訳がわからないと思って読んでいいたものが実は全部伏線かつ最後その意味が分かり、
あ、最初から結末が描写されていたのね、という実によくできた話だな、と思います。

タイムトラベルに関しても、多くのよくある思いつき、に対してすごく真面目に考察
していて、とても真摯に取り組んでいるように思えて・・・
好き勝手でたらめに振り回されていたと思っていたら実はすごく丁寧におもてなしの
コースで案内されていた、みたいな。

そしてそれ以上に感じるのが、この話がすごくすごくまっとうな話だな、と。
暴力だらけ、ぶっとんだ世界の中ででもその中で語られること。

人は人に影響を与えているし与えられていて、そうやって世界はお互いに影響し
あって作られていく。
人は一人では生きられない、一人では弱い、だから愛する人が必要。
どんなに追い込まれても、追い込まれるからこそ自分の本当の気持ちと向き合うこと、自分自身で考えること、あきらめないこと。

そういった、実にありふれた、実にまっとうなことが語られています。
そんなありふれたことが、とんでもない世界のとんでもない文体で語られる中で、
それがとても真摯に、とても切実に、そしてとてもやさしく、胸に胸に迫ってきます。

読んでいるときはもう眩暈がしまくりでついていくのにやっとで、正直書かれ
ていることの半分も理解できないんですが、でも読み終わったときにはすごく優しさに
包まれている気持ちになって感動するのです。
人とつながろう、人を信じよう。人を愛そう、そんな風に励まされるのです。

・・・・うーん、つくづく自分には書評の能力が足りないなぁ。
この本の、というか、舞城作品の、スリリングで暴力的で、それでいてその奥底は
とても優しい、そんな魅力が少しも書けずじまい。

エグイ描写が平気で、冗長な謎解きに抵抗がなく、トンデモSFについていける、という
三拍子そろった方(笑)はぜひ読んでみてください。